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アビエス・リサーチ制作雑記

KENWOOD KT-3030 (FMステレオチューナー)

(2015年10月8日作成)

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KENWOOD FM STEREO TUNER KT-3030 (2015年9月撮影)

KENWOOD KT-3030 評価表

 1984年発売,定価120,000円のKENWOOD製シンセサイザー式FM専用チューナーです.KENWOOD KT-3030の全体写真は他サイトなどで画像はたくさん見られますので,ここでは周波数やシグナルレベルなどを表示する蛍光表示部周辺部のみ掲載しました.

 KENWOODは元々TRIOという名称のメーカーでしたが,元々は海外向け製品に付けられていたブランド名「KENWOOD」を正式に社名に変更したのが1986年なので,KT-3030が発売された1984年はTRIO製「KENWOOD」ブランドのチューナーというのが正式かと思います.

 TRIOと言えば無線機やチューナーが有名で,「チューナーのトリオ」とも言われていました.TRIO(KENWOOD)はバリコン式の時代から高級機を出し続けていましたが,1980年以降のシンセサイザー式FMチューナーで10万円超えの製品は,このKT-3030と1986年発売のD-3300T(定価14万円)の2機種だけでした.

 TRIOは1983年を最後にバリコン式チューナーの開発,発売を終了しており,KT-3030が発売された1984年からはシンセサイザー式チューナーだけの発売になります.1984年というのがオーディオの世界ではどんな時代だったかを簡単に振り返る時,1970年代以前に生まれた人は,「1984年にCDプレーヤーを所持していたか?あるいは家にCDプレーヤーがあったか?」「CDを初めて買ったのは何年か?」を思い出してみるとイメージしやすいかと思います.私の第一番目の答えは「ノー」,二番目の答えは「1987年」です.

 SONYのウォークマンは1979年の発売ですから,1984年にはカセットテープを外出時に持って行くということは,格段珍しいことではなかったはずです.そのカセットテープには何が録音されていたか?といえば,レコードほぼそのまま1枚分だったり,あるいはFM放送をエアチェックしたものだったはずです.1984年はそんな時代です.

 KT-3030はCDの時代がひたひたとやってくるものの,まだまだFMチューナーのオーディオ機器としての位置付けが重要だった時期に出たKENWOODの最高級機です.外観はバリコン機のKENWOOD L-02T(1982年発売・定価30,0000円)やL-03T(1983年発売・定価120,000円)の流れを明らかに受け継います.大きく異なるのはアナログ式の周波数表示盤がなくなったこと,やはりアナログの指針式表示だったSIGNAL,TUNINGメーターがいずれも蛍光管によるデジタル表示化されたことです.それでも表示部のアクリルカバーがフロントパネル上面まで繋がっているデザインはL-03TのMODE,IFバンドポジションなどを表示していたパネルの流れを受け継いでいます.

 チューナーの音質やデザインについて,5段階(0.5点刻み)で評価を行い,右のようなレーダーチャートにまとめることにしました.評価項目について,簡単に説明します.

 ヌケ:主に中高音域の音質,特に伸びと分離についての評価です.ヌケの良いチューナーは高音成分が良く聴こえ,すっきりした良音を奏でます.

 迫力:主に低音域の音質です.楽器全般に言えることですが,低音をきれいに,きちんと出すことは難しいです.弦楽器もヴァイオリンよりチェロの方が良い音を出すのははるかに難しく,金管楽器にも同じことが言えます.歌も同じです,中高音域で歌うのは平易ですが,地声の限界近くの超低音をきちんと鳴らすのは大変です.良いチューナーは低音が像感を持って,迫力ある音で出てきます.

 情報量:FMチューナーは無線の受信機と言えます.搬送波に乗っているFM波をきちんと捉え,検波,増幅する機械です.良い受信,検波,増幅あるいは左右チャンネル分離性能を持ったチューナーは元々のFM波が持っている情報をきちんと音声信号に変換していきます.情報量の多少はチューナーの性能そのものとも言えます.

 音像感:音声をステレオ再生すると,音像に立体感が生まれ,楽器や演奏者の位置,音の響き,音の強弱など,微妙なニュアンスが感じられるようになります.ステレオセパレーションの値自体も大事ですが,オーディオの世界はその値に比例して音像感が良くなるほど甘いものではなく,楽器それぞれが持つニュアンスや色調の違いをうまく表現したチューナーは,音像感がグっと良くなります.

 所有満足度:デザイン,操作性が良く,堅牢で動作が安定していて,音も良い,となれば,チューナーの所有満足度も上がります.ただ単に「音が良い」「デザインが良い」だけではダメです.チューナーのデザインには部屋が明るい時のルックスもありますが,部屋を暗くしたときに浮かび上がる周波数表示やシグナルメーターなどもデザインの良し悪しに繋がってきます.ボタンやノブの操作フィーリング,パネルや端子の作りなども所有満足度を左右する要素です.

 デザイン:前述の所有満足度と類似しますが,何台ものチューナーを所有すると,置く場所にだんだん困ってきます.大きくても作りが良くて音も良ければ許せますが,もっと小さく出来るはず・・・といった機種もあります.可能であれば高さも薄くて奥行もそれほどなく,それでいて堅牢で操作性やルックスもいいチューナーが良いチューナーということになります.ルックスも機械然とした良さがあったり,ボタンの配置バランスが良かったり,蛍光表示パネルが良かったり,それらが長寿命設計になっているか,なども評価の基準になってきます.

総評
 KT-3030の音は良いです.中高音域のヌケに関しては同じ1984年に発売されたKENWOODの兄弟機・KT-2020(定価74,800円)と比較すると,KT-2020の方がスカっとした明快な音が出ていますが,KT-3030はあまり「伸び」がなく,おとなしいというか,良く言えば穏やかな音がします.好みの問題もありますが,中高音域に関してはKT-2020の方が良いと感じます.

 しかし,低音域については明らかにKT-3030の方が良いです.KT-2020も低域は良く出ていますが,KT-3030では低音楽器の存在感がありありと表現されます.ベース(エレキベース)を弾いたことがある人は分かると思いますが,あの太い弦を指板上でしっかり押さえて音を出すと,押さえた指から自分の腹まで,ビーンという振動を受け止めながら演奏することになります.KT-3030は,このような楽器の,指の,そして腹への振動がきちんと感じられます.

 チェロも同じです.ぶっとい弦を左手で押さえ,右手で持った弓で弾くと,弓が弾かれそうになるくらい,強くて太い音が響きます.この太い音が,美しい振動を持ってKT-3030から溢れてきます.

 低域がしっかりしているため,音が堂々としています.いろいろなチューナーを聴き比べていくと,やはり10万円程度の高級チューナーはこのように音がどっしりしています.それでいて高音もヌケがいいチューナーが多いです.

 KT-3030は一聴しただけでもいい音ですが,長期間に亘って使い続けていくと,他のチューナーに比べて細かないろいろな音が聴こて来ることに気付かされます.それだけ受信性能が良く,FM放送の情報を余すことなく出力する能力を持っているからでしょう.私の評価でも「迫力」と「情報量」は5点満点を付けました.

 一方,イマイチなのは定位を含めた音像感です.KT-3030はPLL検波ですが,PLL検波の機種は全般に音が良いものが多い代わりに,音像感は良くないという感想を持ちます.PLL検波の場合,現時点ではどの機種を聴いても楽器のキャラクタ分けが貧弱で,どの楽器も「PLL検波の音になった楽器」みたいな音がします.その点,YAMAHA T-2のようなレシオ検波の機種は楽器そのものの音が存在感ありありに,定位良く聴こえてきます.レシオ検波機を何十台も聴いたわけではないので,あくまで「傾向」として感想です.

 音像感の点数は「3点」とやや辛いですが,KT-3030を聴き続けていると,やっぱりすごい機種なんだと思わされることが頻繁にあります.例えばチェンバロの音などは,細かい音が良く出ており,さまざまな倍音を含んだバロック然とした響きが絢爛に聴こえてきますし,特に定像感を求めなくても良い打ち込み系(電子楽器)の音は迫力と鋭さがあり,立ち上がりの良い音をビンビンに奏でてくれます.

 デザインというか,作りは意外と安っぽいです.例えば昨晩紹介したYAMAHA T-2は堅牢な筐体でしっかり作ってありますが,本機は「上に何も載せないことを前提として作っています」という感じで,天板は薄い鉄板ですし,電源スイッチも妙にクニャっとしていて,高級機に触れる感慨,みたいなものがありません.

 蛍光管は製造から30年を経た今見てもカッコいいですが,さすがに劣化している個体が多く,私の所有する個体も一部表示が不安定で点灯しないことがあります.外観は兄弟機・KT-2020とほぼ変わらないこともあり,KT-2020でもKT-3030でも大して変わらないのでは?という印象を持ってしまいます.KT-3030はFM専用機なのに,AMも登載したKT-2020と同じ蛍光管を使っているため,「AM」や「KHz」の蛍光管も(もちろん点灯はしないものの)備わっている点もやや残念です.

 KT-3030は発売から30年ほど経っており,状態の良い中古は少なくなってきた感を受けます.しかし,良い状態のものはしっかり調整さえすれば「FMってこんなに音がいいんだ・・・」ということが実感できる機種です.KT-2020の方が音が良いという意見もあるようですが,私は音の迫力,情報量の点でKT-3030にKENWOODの野心を感じます.迷いなく,KT-3030の方が良いと言えます.

 なお,当ページのKENWOOD KT-3030の評価ですが,所有するKT-3030は2015年に調整を行ってもらってはいるものの,検波関係のIFTの不具合があるのではないか,ということで,所定のスペックまで上がっていない箇所もあります.そのため,必ずしも初期性能を持ったKT-3030ではないことを前提としての評価ですので,もっと良い結果が得られる場合もあることをご了解下さい.(2015年10月8日記述,2016年2月1日加筆修正)

KENWOOD KT-3030 規格
型式 DLLDスーパーシンセサイザーFMステレオチューナー
受信周波数範囲 76MHz〜90MHz
アンテナインピーダンス 75Ω不平衡
感度(75Ω) Distance: 0.95μV/10.8dBf
Direct: 5μV/25.2dBf
SN比50dB感度
Distance mono: 1.77μV/16.2dBf
stereo: 22μV/38.1dBf
Direct mono: 10μV/31.2dBf
stereo: 100μV/51.2dBf
高調波歪率(100%変調)
Wide mono 100Hz:0.006%
1kHz:0.004%
50Hz〜10kHz:0.009%
stereo 100Hz: 0.009%
1kHz: 0.007%
50Hz〜10kHz: 0.03%
Narrow mono 100Hz: 0.02%
1kHz: 0.01%
50Hz〜10kHz: 0.02%
stereo 100Hz: 0.03%
1kHz: 0.02%
50Hz〜10kHz: 0.1%
SN比(100%変調,85dBf入力) mono: 99dB
stereo: 91dB
キャプチャーレシオ Narrow: 2.0dB
実効選択度(IHF) Wide: 70dB
Narrow: 100dB
ステレオセパレーション
Wide 1kHz: 71dB
50Hz〜10kHz: 60dB
15kHz: 50dB
Narrow 1kHz: 60dB
50Hz〜10kHz: 50dB
15kHz:45dB
周波数特性 20Hz〜15kHz ±0.5dB
イメージ妨害比(84MHz) 100dB
IF妨害比(84MHz) 110dB
スプリアス妨害比(84MHz) 110dB
AM抑圧比(65.2dBf) 70dB
サブキャリア抑圧比 75dB
出力レベル/インピーダンス
FM(1kHz,100%変調) 固定出力: 0.6V/2.3kΩ
可変出力: 1.2V/1kΩ
マルチパス出力 垂直出力: 0.05V/10kΩ
水平出力: 0.6V/10kΩ
電源電圧 AC100V, 50Hz/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法) 16W
外形寸法 幅440×高さ88×奥行326.5mm
重量 4.6kg


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