アビエス・リサーチ制作雑記
Pioneer F-120D (FMステレオ/AMチューナー)
(2015年10月11日作成)
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Pioneer FM STEREO/AM TUNER F-120D (2015年9月撮影)
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Pioneer F-120D 評価表
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1984年発売,定価49,800円のPioneer製シンセサイザー式FM/AMチューナーです.Pioneer F-120Dの全体写真は他サイトなどで画像はたくさん見られますので,ここでは周波数やシグナルレベルなどを表示するLED表示部周辺部のみ掲載しました.
1982年に発売された「Pioneer F-120」の後継機で,検波方式はF-120と同じパルスカウント検波です.掲載したフロントパネル写真には写っていませんが,本機のパネル右上端には「Digital Direct Decoder TYPE II」とあります.Digital Direct Decoder は,FM信号そのものをデジタルにして一気に復調し,歪や雑音を原理的に発生させないシステムのことで,検波前にIF周波数10.7MHzを1.26MHzに変換し,これをパルスカウント検波,ステレオ信号に分離するものです.
パルスカウント検波はTRIOのお家芸とも言える技術で,歪の極めて少ない明瞭な音が特徴でした.TRIO(後のKENWOOD)はバリコン式チューナーをやめた1983年頃を境に,このパルスカウント検波もやめてしまい(TRIO最後のパルスカウント機は1982年発売のKT-1100),主力商品はPLL検波にD.L.L.D.(Direct Linear Loop Detector)を組み合わせた方式へと発展させていきました.そんな中,Pioneerは音が良いという定評を持っていた「F-120」の検波方式やデザインを継承し,このF-120Dを登場させています.
F-120Dのフロントパネル中央付近には青色で「DIGITAL」のロゴと「FOR DIGITAL AUDIO」の文字が印字されています(当ページでの写真でも確認できます).やたら「DIGITAL」を主張しています.それだけ,1984年という時代はDIGITALは音が良い,これからはDIGITALの時代だ・・・といった意気込みというか,洗脳がはびこっていた時代だったのかもしれません.F-120Dの音ですが,初めて聴いた時は,なんて美しい音のチューナーなんだ・・・という衝撃を受けました.
チューナーの音質やデザインについて,5段階(0.5点刻み)で評価を行い,右のようなレーダーチャートにまとめることにしました.評価項目について,簡単に説明します.なお,評価はすべてFMだけであり,AM部は評価の対象外です.
ヌケ: 主に中高音域の音質,特に伸びと分離についての評価です.ヌケの良いチューナーは高音成分が良く聴こえ,すっきりした良音を奏でます.
迫力: 主に低音域の音質です.楽器全般に言えることですが,低音をきれいに,きちんと出すことは難しいです.弦楽器もヴァイオリンよりチェロの方が良い音を出すのははるかに難しく,金管楽器にも同じことが言えます.歌も同じです,中高音域で歌うのは平易ですが,地声の限界近くの超低音をきちんと鳴らすのは大変です.良いチューナーは低音が像感を持って,迫力ある音で出てきます.
情報量: FMチューナーは無線の受信機と言えます.搬送波に乗っているFM波をきちんと捉え,検波,増幅する機械です.良い受信,検波,増幅あるいは左右チャンネル分離性能を持ったチューナーは元々のFM波が持っている情報をきちんと音声信号に変換していきます.情報量の多少はチューナーの性能そのものとも言えます.
音像感: 音声をステレオ再生すると,音像に立体感が生まれ,楽器や演奏者の位置,音の響き,音の強弱など,微妙なニュアンスが感じられるようになります.ステレオセパレーションの値自体も大事ですが,オーディオの世界はその値に比例して音像感が良くなるほど甘いものではなく,楽器それぞれが持つニュアンスや色調の違いをうまく表現したチューナーは,音像感がグっと良くなります.
所有満足度: デザイン,操作性が良く,堅牢で動作が安定していて,音も良い,となれば,チューナーの所有満足度も上がります.ただ単に「音が良い」「デザインが良い」だけではダメです.チューナーのデザインには部屋が明るい時のルックスもありますが,部屋を暗くしたときに浮かび上がる周波数表示やシグナルメーターなどもデザインの良し悪しに繋がってきます.ボタンやノブの操作フィーリング,パネルや端子の作りなども所有満足度を左右する要素です.
デザイン: 前述の所有満足度と類似しますが,何台ものチューナーを所有すると,置く場所にだんだん困ってきます.大きくても作りが良くて音も良ければ許せますが,もっと小さく出来るはず・・・といった機種もあります.可能であれば高さも薄くて奥行もそれほどなく,それでいて堅牢で操作性やルックスもいいチューナーが良いチューナーということになります.ルックスも機械然とした良さがあったり,ボタンの配置バランスが良かったり,蛍光表示パネルが良かったり,それらが長寿命設計になっているか,なども評価の基準になってきます.
総評
パルスカウント検波機らしい,歪のない,美しい音です.「すっきり爽やか」な音ですが,逆に力強さというか,いわゆるガッツのある音ではありません.このような傾向はパルスカウント検波機の特徴なのかもしれません.PLL検波はパワフルで元気の良い,はじけるような音がする傾向を感じます.KENWOOD KT-2020のページで,PLL検波の音は飲み物で例えると炭酸飲料と書きましたが,パルスカウント検波の音は天然水のような感じでしょうか.混じり気がなく,澄んだ音です.
F-120Dのデザインですが,私はあまり良いとは感じません.周波数などが表示されるパネルは青を基調としたバックで,高級感はありませんが,これがイイと感じる人もいるかもしれません.この機種定番の不具合として,計8個あるSTATION CALLボタン裏側にあるスポンジ(STATION CALLボタンの押下をタクトスイッチに伝える緩衝材)がボロボロに劣化し,STATION CALLボタンがまったく効かなくなります.発売から30年を経ているとはいえ,もっと耐久性を考えた構造や素材の方がベターでした.なお,簡単な分解でスポンジ部分の交換は可能です.
ボディカラーは写真のシルバーの他,ブラックもあります.中古ではブラックの方を良く見かけます.これら2色を発売していたことなどはKENWOOD KT-2020(同年の1984年発売)とも共通しています.なお,作者はF-120Dのブラックボディも所有しており,別ページに掲載した基盤写真はブラックボディのものです.私はこの機種に関してはブラックよりシルバーボディの方が好みです.
TRIOはKT-1100を最後にパルスカウント検波をやめてしまった,と書きましたが,PioneerもこのF-120Dを最後にパルスカウント検波機は出していません.AccuphaseのDGL検波はパルスカウント検波に相当しますが,カタログなどに「パルスカウント」を謳って一般に発売されたチューナーとしては恐らく本機が最後になるかと思います(LUXMANが1987年にT-117というチューナーを出しており,PLL検波とパルスカウント検波の両方を搭載したチューナーを出しています).
F-120Dは定価5万円を切る価格でパルスカウントならではの美しい音が聴ける,という意味でも,非常に優秀なチューナーだと思います.高さが低いスリムなデザインは使いやすいです.
なお,当ページのPioneer F-120Dの評価ですが,所有するF-120Dは2015年に調整を行ってもらい,少なくとも数値上は初期性能を発揮している個体を聴いています.自信を持って良い機種とお勧めできます.(2015年10月11日記述,10月15日加筆修正)
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型式 |
D.D.デコーダーType II搭載FM/AMチューナー |
<FMチューナー部> |
S/N比50dB感度 |
mono: 1.77V, 新IHF 16.2dBf
stereo: 21.0μV, 新IHF 37.7dBf |
実用感度(Narrow, 75Ω) |
mono: 0.95μV, 新IHF 10.8dBf |
SN比(85dBf入力時) |
mono: 98dB
stereo: 90dB |
高調波歪率(Wide) |
mono: 0.008%(100Hz), 0.006%(1kHz), 0.01%(10kHz)
stereo: 0.01%(100Hz), 0.009%(1kHz), 0.05%(10kHz) |
キャプチャーレシオ |
Wide: 0.8dB
Narrow: 2.5dB |
実効選択度 |
Wide: 30dB(400kHz)
Narrow: 60dB(300kHz) |
ステレオセパレーション |
Wide: 70dB(1kHz), 54dB(20Hz〜10kHz)
Narrow: 40dB(1kHz), 40dB(20Hz〜10kHz) |
周波数特性 |
20Hz〜15kHz +0.2 -0.8dB |
イメージ妨害比 |
70dB |
IF妨害比 |
100dB |
スプリアス妨害比 |
80dB |
AM抑圧比 |
70dB |
サブキャリア抑圧比 |
65dB |
ミューティング動作レベル |
5μV(25.2dBf) |
アンテナ入力インピーダンス |
75Ω不平衡型 |
<AMチューナー部> |
実用感度 |
150μV/m(内蔵アンテナ) |
選択度 |
25dB(±9kHz) |
SN比 |
55dB |
<総合> |
出力レベル/インピーダンス |
FM(100%変調): 650mV/900Ω
AM(30%変調): 150mV/900Ω |
電源電圧 |
AC100V, 50Hz/60Hz |
消費電力(電気用品取締法) |
14W |
外形寸法 |
幅420×高さ61×奥行312mm |
重量 |
4.5kg |
別売 |
サイドウッド JA-F120(\2,500) |
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