アビエス・リサーチ制作雑記
Accuphase T-108 (FMステレオチューナー)
(2015年10月13日作成)
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Accuphase FM STEREO TUNER T-108(2015年9月撮影)
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Accuphase T-108 評価表
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1990年発売,定価120,000円のAccuphase製シンセサイザー式FM専用チューナーです.Accuphase T-108の全体写真は他サイトなどで画像はたくさん見られますので,ここでは周波数やシグナルレベルなどを表示する蛍光表示部周辺部のみ掲載しました.
重量9.4kg,高さ115mmもあり,シンセサイザー式チューナーとしてはかなり大きいです.しかし,しっかりと重厚に作られており,出て来る音も猛烈に良く,Accuphase製チューナーは,まさに「チューナーの王者」としての風格と地位を確立しています.
Accuphaseといえばアンプが有名ですが,FMチューナーも高級機のみを現在も出し続けています.2015年現在,音が素晴らしいオーディオコンポーネントFMチューナーを作っている日本メーカーは,Accuphaseだけになってしまいました.機種はT-1100で,定価は税抜330,000円します.T-1100については後述します.
TRIOがKENWOODブランドで1982年に発売した超弩級FMチューナー・L-02Tも定価30万円したのだから,T-1100の33万円は別に高くはない・・・という考えもありますが,問題なのは現在は33万円するT-1100の下にランクされる高級・中級チューナーは,どこのメーカーもまったく作っていないし,売っていないことでしょう.FMチューナーを取り巻く現状はこんなだからこそ,1980〜1990年前後に発売された,T-108のような音の良い高性能チューナーを,中古で買って使わねばならない現状があるのです.
Accuphaseは自社の古い製品についても,部品在庫を極力揃えて修理に対応しており,チューナーに関しても30年以上前の製品でも部品があれば修理できる可能性があります.Accuphase社のこのような補修体制には敬意を表します.
チューナーの音質やデザインについて,5段階(0.5点刻み)で評価を行い,右のようなレーダーチャートにまとめることにしました.評価項目について,簡単に説明します.
ヌケ: 主に中高音域の音質,特に伸びと分離についての評価です.ヌケの良いチューナーは高音成分が良く聴こえ,すっきりした良音を奏でます.
迫力: 主に低音域の音質です.楽器全般に言えることですが,低音をきれいに,きちんと出すことは難しいです.弦楽器もヴァイオリンよりチェロの方が良い音を出すのははるかに難しく,金管楽器にも同じことが言えます.歌も同じです,中高音域で歌うのは平易ですが,地声の限界近くの超低音をきちんと鳴らすのは大変です.良いチューナーは低音が像感を持って,迫力ある音で出てきます.
情報量: FMチューナーは無線の受信機と言えます.搬送波に乗っているFM波をきちんと捉え,検波,増幅する機械です.良い受信,検波,増幅あるいは左右チャンネル分離性能を持ったチューナーは元々のFM波が持っている情報をきちんと音声信号に変換していきます.情報量の多少はチューナーの性能そのものとも言えます.
音像感: 音声をステレオ再生すると,音像に立体感が生まれ,楽器や演奏者の位置,音の響き,音の強弱など,微妙なニュアンスが感じられるようになります.ステレオセパレーションの値自体も大事ですが,オーディオの世界はその値に比例して音像感が良くなるほど甘いものではなく,楽器それぞれが持つニュアンスや色調の違いをうまく表現したチューナーは,音像感がグっと良くなります.
所有満足度: デザイン,操作性が良く,堅牢で動作が安定していて,音も良い,となれば,チューナーの所有満足度も上がります.ただ単に「音が良い」「デザインが良い」だけではダメです.チューナーのデザインには部屋が明るい時のルックスもありますが,部屋を暗くしたときに浮かび上がる周波数表示やシグナルメーターなどもデザインの良し悪しに繋がってきます.ボタンやノブの操作フィーリング,パネルや端子の作りなども所有満足度を左右する要素です.
デザイン: 前述の所有満足度と類似しますが,何台ものチューナーを所有すると,置く場所にだんだん困ってきます.大きくても作りが良くて音も良ければ許せますが,もっと小さく出来るはず・・・といった機種もあります.可能であれば高さも薄くて奥行もそれほどなく,それでいて堅牢で操作性やルックスもいいチューナーが良いチューナーということになります.ルックスも機械然とした良さがあったり,ボタンの配置バランスが良かったり,蛍光表示パネルが良かったり,それらが長寿命設計になっているか,なども評価の基準になってきます.
総評
T-108は猛烈に音が良いです.初めて聴いたとき,その生々しい音に仰天しました.等身大のボーカル,楽器が,すぐその場で演奏しているような音が聴こえてきます.スタジオのトークは,目をつぶって聴いていると,すぐそこに人が居てしゃべっているようで,不気味なくらいです.音が重量感と明瞭なクリアさを持って,リアルに,生々しく聴こえてきます.
T-108の検波方式はDGL検波です.DGLはDifferential Gain Linearの略で,10.7MHzのIF周波数を2.5MHzまで落とし,信号波の疎密度をデジタル検出することにより音声信号にして出力する方式で,LC回路を使わず,無調整回路でありながら安定した直線特性が得られる優秀な方式です.検波方式はパルスカウント検波そのものですが,AccuphaseではDGL検波(T-108以降に発売されたT-109,T-109V,T-1000はAdvanced DGL検波)と呼称しています.
T-108の特徴として,背面にFMチューナーとしては初めてXLRバランス出力が装備されたことが挙げられます.作者所有のプリメインアンプにはバランス入力が付いていますので(というか,空いていたアンプのバランス入力を使いたかったこともあって),バランス接続で聴いていますが,心情的なものもあるのか,アンバランス(RCAピンケーブル)より明らかに音場が良く感じます.
T-108以降のAccuphaseのチューナーにはどれもバランス出力が装備されていますが,2005年発売のT-1000(定価280,000円)からは更にデジタル出力(同軸・サンプリング周波数48kHz)も装備されています.Accuphaseの開発スピリット,技術改善姿勢には脱帽です.
T-1000が発売された2005年,「さすがのAccuphaseも,もうFMチューナーはこれが最後だろう」などと言われていましたが,なんと2010年にT-1100という機種が,検波方式も「ディジタルFM復調方式」(DSP)として,設計も根底から改めて洗い直したFMチューナーを出してオーディオマニアの度肝を抜きました.
T-108の私自身の評価はほとんど5点満点の評価です.T-1000やT-1100の音を聴いたことはありませんが,これらは「5点」なんて簡単に突き抜け,レーダーチャートが超新星爆発状態になるかもしれません.
さて,T-108にはまったく同じ価格,性能,機能でありながら筐体をやや小型化して外観を変えたT-11という「双子機」がありました.同時期に発売されたプリアンプC-11やパワーアンプP-11とデザインを揃えたチューナーで,スタイリッシュなデザインになっています.
T-108のデザインもAccuphaseらしい貫禄を備えていて好きですが,やはり大きく,せめてT-11くらいの高さに抑えてもらえれば・・・という思いもあります.そのようなこともあり,評価の「所有満足度」「デザイン」は4.5点にしてあります.
なお,当ページのAccuphase T-108の評価ですが,所有するT-108は2015年に調整を行ってもらい,少なくとも数値上は初期性能を発揮している個体を聴いています.自信を持って良い機種とお勧めできます.(2015年10月13日記述,2016年2月1日加筆修正)
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型式 |
シンセサイザーFMチューナー |
<モノラル特性> |
受信周波数 |
76.1MHz〜89.9MHz |
実用感度 |
11dBf(IHF) |
S/N 50dB感度 |
17dBf(IHF) |
定在波比 |
1.5 |
S/N(80dBf入力, A補正) |
90dB |
全高調波歪率(80dBf入力,
±75kHz偏移, Normal時) |
20Hz: 0.02%
1kHz: 0.02%
10kHz: 0.02% |
IM歪率 |
0.01%(80dBf入力, ±75kHz偏移) |
周波数特性 |
10Hz〜16000Hz +0 -1.0dB |
2信号選択度(IHF) |
妨害波 |
Normal |
Narrow |
400kHz |
70dB |
100dB以上 |
300kHz |
30dB |
100dB |
200kHz |
10dB |
40dB |
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キャプチャーレシオ |
1.5dB |
RF相互変調 |
80dB |
スプリアス妨害比 |
120dB |
イメージ比 |
100dB |
AM抑圧比(65dBf入力) |
80dB |
サブキャリア抑圧比 |
70dB |
SCA妨害比 |
80dB |
出力電圧(±75kHz偏移) |
1.0V |
<ステレオ特性> |
感度 |
S/N 40dB感度: 29dBf(IHF)
S/N 50dB感度: 37dBf(IHF) |
S/N(80dBf入力, A補正) |
85dB |
全高調波歪率(80dBf入力,
±75kHz偏移, Normal時) |
20Hz: 0.04%
1kHz: 0.04%
10kHz: 0.04% |
IM歪率 |
0.03%(80dBf入力, ±75kHz偏移) |
周波数特性 |
10Hz〜16000Hz +0 -1.0dB |
ステレオ分離度 |
100Hz: 50dB
1kHz: 50dB
10kHz: 40dB |
ステレオ切替入力電圧 |
20dBf |
<総合> |
アンテナ |
75Ω不平衡(300Ω平衡変換器付) |
同調方式 |
クォーツ・シンセサイザー方式
16局ランダムメモリー・チューニング |
検波方式 |
DGL方式 |
出力インピーダンス |
Balanced(平衡XLRタイプ): |
200Ω(100Ω/100Ω) |
Unbalanced(不平衡) |
Fixed(固定出力): 200Ω
Controlled(可変出力): 1.25kΩ(最大) |
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メーター |
信号強度, マルチパス切替式 |
使用半導体 |
トランジスタ: 15個
FET: 5個
IC: 32個
ダイオード: 36個 |
電源 |
AC100V/117V/220V/240V, 50Hz/60Hz |
消費電力 |
15W |
外形寸法 |
幅475×高さ115×奥行351mm |
重量 |
9.4kg |
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