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アビエス・リサーチ制作雑記

KENWOOD D-3300T (FMステレオチューナー)

(2015年10月16日作成)

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KENWOOD FM STEREO TUNER D-3300T (2015年9月撮影)

KENWOOD D-3300T 評価表

 1986年発売,定価140,000円のKENWOOD製シンセサイザー式FM専用チューナーです.KENWOOD D-3300Tの全体写真は他サイトなどで画像はたくさん見られますので,ここでは電源ボタンやシグナルレベルなどを表示する蛍光表示部周辺部のみ掲載しました.

 KENWOODがシンセサイザ式チューナーで高級機,つまり発売当時のフラッグシップ機で10万円超えの製品は,1984年発売のKT-3030とこのD-3300Tだけで,これら以降,チューナーの高級機を出すことはありませんでした(1974年発売のTRIO 700Tは「フラッグシップ」という位置付けか判断付かないことから除外します).

 いずれにしても,KENWOOD(かつてのTRIO)という無線機やチューナーの技術で定評を持っていたメーカーも,1986年の本機を最後に高級FMチューナーはやめてしまったことになります.1986年にもなると,もはやチューナーが売れる時代ではなくなったのでしょう.

 この頃,CDの売り上げ枚数は徐々にLPに迫り,1987年頃にそれらの売上枚数が逆転したと言われています.それだけ手軽に,良い音で音楽メディアに接することが可能になった時代であり,もはやFMチューナー,それも10万円程度もするチューナーを買う需要はほとんどなくなってしまったものと察します.D-3300Tはそんな時代に発売されたFMチューナーです.

 チューナーの音質やデザインについて,5段階(0.5点刻み)で評価を行い,右のようなレーダーチャートにまとめることにしました.評価項目について,簡単に説明します.

 ヌケ: 主に中高音域の音質,特に伸びと分離についての評価です.ヌケの良いチューナーは高音成分が良く聴こえ,すっきりした良音を奏でます.

 迫力: 主に低音域の音質です.楽器全般に言えることですが,低音をきれいに,きちんと出すことは難しいです.弦楽器もヴァイオリンよりチェロの方が良い音を出すのははるかに難しく,金管楽器にも同じことが言えます.歌も同じです,中高音域で歌うのは平易ですが,地声の限界近くの超低音をきちんと鳴らすのは大変です.良いチューナーは低音が像感を持って,迫力ある音で出てきます.

 情報量: FMチューナーは無線の受信機と言えます.搬送波に乗っているFM波をきちんと捉え,検波,増幅する機械です.良い受信,検波,増幅あるいは左右チャンネル分離性能を持ったチューナーは元々のFM波が持っている情報をきちんと音声信号に変換していきます.情報量の多少はチューナーの性能そのものとも言えます.

 音像感: 音声をステレオ再生すると,音像に立体感が生まれ,楽器や演奏者の位置,音の響き,音の強弱など,微妙なニュアンスが感じられるようになります.ステレオセパレーションの値自体も大事ですが,オーディオの世界はその値に比例して音像感が良くなるほど甘いものではなく,楽器それぞれが持つニュアンスや色調の違いをうまく表現したチューナーは,音像感がグっと良くなります.

 所有満足度: デザイン,操作性が良く,堅牢で動作が安定していて,音も良い,となれば,チューナーの所有満足度も上がります.ただ単に「音が良い」「デザインが良い」だけではダメです.チューナーのデザインには部屋が明るい時のルックスもありますが,部屋を暗くしたときに浮かび上がる周波数表示やシグナルメーターなどもデザインの良し悪しに繋がってきます.ボタンやノブの操作フィーリング,パネルや端子の作りなども所有満足度を左右する要素です.

 デザイン: 前述の所有満足度と類似しますが,何台ものチューナーを所有すると,置く場所にだんだん困ってきます.大きくても作りが良くて音も良ければ許せますが,もっと小さく出来るはず・・・といった機種もあります.可能であれば高さも薄くて奥行もそれほどなく,それでいて堅牢で操作性やルックスもいいチューナーが良いチューナーということになります.ルックスも機械然とした良さがあったり,ボタンの配置バランスが良かったり,蛍光表示パネルが良かったり,それらが長寿命設計になっているか,なども評価の基準になってきます.

総評
 D-3300Tの音は猛烈に良いです.音の生々しさ,クリアさが素晴らしく,細かい音,残響まで,極めて良いS/Nの世界から音が聴こえてきます.無音時のノイズがほとんどなく,目をつぶって聴いていると,真っ暗なステージから,楽器ごとに光が当たったその場所から音が出てきます.スピーカーが置かれた位置よりもさらに左右が広がり,奥行きも広がり,とにかく広い空間から豊かな響きを伴った音が出てきます.

 外観は1984年発売のKT-3030KT-2020をそのまま踏襲したKENWOODチューナー然としたボディですが,この機種には両脇にサイドウッドが付いています.このサイドウッドは無垢の木材を使用したものではなく,いわゆる木屑を集めて接着剤で繋ぎあわせ,そこに化粧板を貼っただけのパーティクルボードと思われます.それでも,KT-3030のようなサイドウッドなしと,本機のようにサイドウッドありでは「高級機」としての見た目の貫録がまったく違います.見てくれは本当に大事ですね.

 そして,このサイドウッドの化粧板が真っ黒です.オーディオ機器のサイドウッドは,黒系とは言っても黒褐色,つまりこげ茶色がほとんどだと思います.それが本機は炭焼きした木材みたいに真っ黒です.

 さきほど,目をつぶって音を聴いていると,真っ暗なステージからの音が聴こえてくると書きましたが,PLL検波のチューナーの音の特徴として,音の「背景」が黒いです.明るい,晴天の野外での音楽,という感じではなく,暗くしたライブハウスみたいなステージで,楽器や演奏者に光が当たっていてそこからクリアで歯切れの良い音が聴こえてくる,という感じです.本機の外観はそういった「音」を体現している感じがします.

 本機を聴いてもっとも驚かされるのは,モリモリ出る低音です.まさにモリモリと,しっかりと出て来ます.決してボヨボヨした安っぽい低音ではありません.低音楽器の震えが分かる,生々しい音です.

 低音も出ていますが,高音域のヌケも最高に良いです.超高音まで,クリアに,豊かに,澄んだ音で聴こえてきます.

 解像度もすさまじく良く,ドラムスの入る曲では床付近にバスドラムが,目線やや下にスネアやハイハットやタムタムが,そして目線上やその上部にシンバル系が,なんでこんなに美しい音が出るんだ?というほど素晴らしい音で鳴ります.KENWOODのチューナーはシンバルなどの金属楽器の音が極めて良いのですが,本機も最高に良い音がします.

 驚いたのが琴の音です.床に琴が置かれ,奏者がそこに座って演奏しているのがありありと分かります.正直,琴の音を真剣に聴いたことがありませんでしたが,琴の振動が生々しく伝わってきました.

 こんな素晴らしい音を聴いていると,KENWOODというメーカーが本機を最後にチューナーの高級機をやめてしまったことが勿体なくて仕方ないです.KENWOOD(TRIO)は1982年にL-02T(定価300,000円)という超弩級バリコン式チューナを,1984年にKT-3030(定価120,000円)というシンセサイザー機最初の高級機を,そして1986年に本機を出しています.2年ごとにPLL検波の高級機を出し,そのいずれもが今日でも絶賛されています.

 当時のKENWOODのチューナー部門に優秀な技術者がいたことは容易に想像出来ます.もし,本機から2年後の1988年頃にPLL検波方式の高級機が発売されていたならば,D-3300Tをはるかに凌駕するチューナーが誕生していた可能性は極めて高いです.KENWOODはこれだけの技術を持ちながら,こんなに豊かな音が鳴るチューナーは本機が最後だったというのが残念でなりません.

 なお,当ページのKENWOOD D-3300Tの評価ですが,所有するD-3300Tは2015年に調整を行ってもらっており,少なくとも数値上は初期性能を発揮している個体を聴いています.自信を持って良い機種とお勧めできます.(2015年10月16日記述,2016年2月2日加筆修正)

KENWOOD D-3300T 規格
型式 FMステレオチューナー
受信周波数範囲 76MHz〜90MHz
アンテナインピーダンス 75Ω不平衡
感度(75Ω) Distance: 0.95μV/10.8dBf
Direct: 10μV/31.2dBf
SN比50dB感度
Distance mono: 1.8μV/16.2dBf
stereo: 24μV/38.8dBf
Direct mono: 18μV/36.3dBf
stereo: 240μV/58.8dBf
高調波歪率(100%変調)
Wide mono 100Hz: 0.006%
1kHz: 0.004%
50Hz〜10kHz: 0.009%
stereo 100Hz: 0.009%
1kHz: 0.007%
50Hz〜10kHz: 0.03%
Narrow mono 100Hz: 0.02%
1kHz: 0.01%
50Hz〜10kHz: 0.02%
stereo 100Hz: 0.03%
1kHz: 0.02%
50Hz〜10kHz: 0.1%
SN比(100%変調, 85dBf入力) mono: 100dB
stereo: 92dB
キャプチャーレシオ Wide: 0.8dB
Narrow: 2.0dB
実効選択度(IHF) Wide: 70dB
Narrow: 100dB
ステレオセパレーション
Wide 1kHz: 71dB
50Hz〜10kHz: 60dB
15kHz: 50dB
Narrow 1kHz: 60dB
50Hz〜10kHz: 50dB
15kHz: 45dB
周波数特性 20Hz〜15kHz ±0.5dB
イメージ妨害比(84MHz) 90dB
IF妨害比(84MHz) 110dB
スプリアス妨害比(84MHz) 100dB
AM抑圧比(65.2dBf) 70dB
サブキャリア抑圧比 75dB
出力レベル/インピーダンス
FM(1kHz, 100%変調) 固定出力: 0.6V/2.3kΩ
可変出力: 1.2V/1kΩ
電源電圧 AC100V, 50Hz/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法) 20W
外形寸法 幅475×高さ88.5×奥行327mm
重量 6.0kg
付属 T型アンテナ
アンテナアダプター
両ピンコード
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