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アビエス・リサーチ制作雑記

TRIO KT-2200 (FMステレオチューナー)

(2016年2月5日作成,2018年10月7日加筆修正)

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TRIO AM/FM STEREO TUNER KT-2200 (2016年1月撮影)

TRIO AM/FM STEREO TUNER KT-2200 (2016年1月撮影)

TRIO KT-2200 評価表

 1983年発売,定価99,800円のTRIOバリコン式FMチューナーです.TRIO KT-2200の全体写真は他サイトなどで画像はたくさん見られますので,ここでは1枚目に電源ボタン周辺部を,2枚目に機能ボタンと同調ノブ周辺部を掲載しました.

 KT-2200はTRIO/KENWOODが最後に発売したバリコン式チューナーで,上位機のL-03T(定価120,000円・この機種はKENWOODブランドで発売)と同時に1983年に販売されました.KT-2200とL-03Tの違いは,以下です.

 KT-2200:シャーシ内部も鉄板のまま,Σドライブなし,TRIOブランド.

 L-03T  :シャーシ内部は銅メッキ,  Σドライブあり,KENWOODブランド.

 銅メッキシャーシは鉄板剥き出しのシャーシに比べ,マグネティック・ディストーション(磁気歪)を軽減させる効果があると言われています.Σドライブは出力インピーダンスを1Ω以下にして出力するKENWOOD独自の方式です.

 これらの違いにより,価格は20,200円も異なっていましたが,仕様(定格)は(Σ出力部以外)まったく同じであり,KT-2200とL-03Tは音質的に差はほとんど無いものと思います.

 また,当時のメーカー名は「TRIO(トリオ株式会社)」でしたが,輸出用機器には(その後,国内向け高級機にも)「KENWOOD」というブランド名を使っており(その後,TRIOはKENWOODに社名変更),L-03TはKENWOODブランドとして発売され,ボディカラーもブラックのみでした(KT-2200はシルバーのみ).

 KT-2200/L-03Tの大きな特徴は,ノンスペクトラムIFシステムを搭載した最後の機種ということです.ノンスペクトラムIFシステムは,IF(中間周波数・Intermediate Frequency)回路に入るFM信号からFMスペクトルを取り除き,IFフィルターを通して妨害信号を除去した後,元のFM信号に戻して検波するものです.

 このシステムは,優れた妨害排除能力を維持したまま歪を最少に抑えることができるもので,1982年にTRIOがKENWOODブランドとして発売した超弩級FMバリコン式チューナー・L-02T(定価300,000円)で初めて搭載されました.しかし,結局このシステムはTRIO以外のチューナーに登載されたことはなく,またTRIOもバリコン式チューナー3機種への登載のみで終焉となり,シンセサイザー式ではこのノンスペクトラムIFシステムは使われませんでした.

 チューナーの音質やデザインについて,5段階(0.5点刻み)で評価を行い,右のようなレーダーチャートにまとめることにしました.評価項目について,簡単に説明します.なお,評価はすべてFMだけであり,AM部は評価の対象外です.

 ヌケ: 主に中高音域の音質,特に伸びと分離についての評価です.ヌケの良いチューナーは高音成分が良く聴こえ,すっきりした良音を奏でます.

 迫力: 主に低音域の音質です.楽器全般に言えることですが,低音をきれいに,きちんと出すことは難しいです.弦楽器もヴァイオリンよりチェロの方が良い音を出すのははるかに難しく,金管楽器にも同じことが言えます.歌も同じです,中高音域で歌うのは平易ですが,地声の限界近くの超低音をきちんと鳴らすのは大変です.良いチューナーは低音が像感を持って,迫力ある音で出てきます.

 情報量: FMチューナーは無線の受信機と言えます.搬送波に乗っているFM波をきちんと捉え,検波,増幅する機械です.良い受信,検波,増幅あるいは左右チャンネル分離性能を持ったチューナーは元々のFM波が持っている情報をきちんと音声信号に変換していきます.情報量の多少はチューナーの性能そのものとも言えます.

 音像感: 音声をステレオ再生すると,音像に立体感が生まれ,楽器や演奏者の位置,音の響き,音の強弱など,微妙なニュアンスが感じられるようになります.ステレオセパレーションの値自体も大事ですが,オーディオの世界はその値に比例して音像感が良くなるほど甘いものではなく,楽器それぞれが持つニュアンスや色調の違いをうまく表現したチューナーは,音像感がグっと良くなります.

 所有満足度: デザイン,操作性が良く,堅牢で動作が安定していて,音も良い,となれば,チューナーの所有満足度も上がります.ただ単に「音が良い」「デザインが良い」だけではダメです.チューナーのデザインには部屋が明るい時のルックスもありますが,部屋を暗くしたときに浮かび上がる周波数表示やシグナルメーターなどもデザインの良し悪しに繋がってきます.ボタンやノブの操作フィーリング,パネルや端子の作りなども所有満足度を左右する要素です.

 デザイン: 前述の所有満足度と類似しますが,何台ものチューナーを所有すると,置く場所にだんだん困ってきます.大きくても作りが良くて音も良ければ許せますが,もっと小さく出来るはず・・・といった機種もあります.可能であれば高さも薄くて奥行もそれほどなく,それでいて堅牢で操作性やルックスもいいチューナーが良いチューナーということになります.ルックスも機械然とした良さがあったり,ボタンの配置バランスが良かったり,蛍光表示パネルが良かったり,それらが長寿命設計になっているか,なども評価の基準になってきます.

総評
 KT-2200の音は極めて良いです.ノンスペクトラムIFシステムが効いているためか,我が家の受信環境(屋上への5素子八木アンテナ設置)ではどうしても歪が抑えられなかったピアノの音や声楽曲も,ほとんど歪のないクリアな音で受信できています.

 KT-2200はPLL検波です.ただでさえ音がクリアな機種が多いPLL検波に,さらにノンスペクトラムIFによる低歪の音となったため,猛烈に音が澄んで聴こえます.こんなにクリアなチューナーの音は初めて聴きました.

 音質はとってもクールです.楽器の音がするというよりは,「スタジオモニタスピーカーから流れる音」をそのまま聴いている感じで,コンサートホールにいる感じの音ではなく,オーディオ機器の音を再現したような音です.「オーディオ機器の音を再現したような音のチューナー」と言うと,なんだか悪い音のチューナーに思われるかもしれませんが,まったく違います.不思議なもので,すごく良い音です.

 暖かみのある音では決してなく,クールで冷静沈着な音ですが,この音も本当に良いです.例えれば,冷たい,透明度の極めて高い湖の水の中から音が聴こえてくる,という感じですが,清冽で飾り気がない音で,本機のスイッチを入れてFMを聴くのが本当に楽しみです.

 このような音の対極の音作りをしたチューナーは,YAMAHA T-2かもしれません.T-2は楽器の音色が豊かで,音に暖かみが感じられます.T-2も良い音ですし,KT-2200も良い音です.FMチューナーの世界は本当に楽しいです.

 KT-2200は受信性能も良く,ノイズ,歪も極めて少ないため,細かい音も良く聴こえます.セパレーションが良いためか,音の定位がすばらしく良いです.音場が広く,左右,奥行きとも広く,深く音が奏でられます.

 高音も低音も良く出ていますが,音の生々しさはあまり感じられません.前述したように,モニタスピーカーライクな「冷静沈着」な音で,演奏者の息づかいや荒々しさ,あるいはやさしさといったニュアンスが伝わってきません.ただ,こういった生々しいニュアンスが表現出来るチューナーとなると,私が聴いて来た機種でもなかなかなく,KENWOOD D-3300TAccuphase T-105Accuphase T-108くらいになってしまいます.

 KENWOODブランドの超弩級機・L-02T(1982年発売・定価300,000円)が登載していた「ノンスペクトラムIF」「サンプリングホールドMPX」といった技術,システムをほぼそのまま受け継ぎ,ギリギリで10万円を切る価格帯に下げて発売したのが,このKT-2200と言えます.これらの技術により,極めて良い音のチューナーになっていますが,それだけにL-02Tはもっともっと素晴らしい,生々しい音がするものと思います.現時点でL-02Tの音を聴いたことがありません,是非,聴いてみたいものです.

 KT-2200のデザインですが,もう少し全体の高さが低く出来なかったものかと思いますが,直線を多用した堅実な外観で,ヘアラインアルミの冷たい感じの外観が,実際に出て来る音とマッチしてなかなか良いです.但し,チューニングノブ左上に配置されているモードスイッチやミューティングレベルレバーなどはプラスチックで出来ており,経年で茶ばんでいることもあって残念です.

 このモードスイッチ等のインジケーターランプ(LED)が入る天板部分まで回る透明プラスチック部分や,傾斜したSIGNAL/DEVIATIONメーター,TUNINGメーターなどはその後のKENWOOD製シンセサイザ式チューナーのデザインへ踏襲されています.

 また,電源スイッチやSIGNAL,DEVIATIONメーター切替スイッチはその大きさ(タテ15mm,ヨコ21mm)や質感から,KENWOOD KT-3030KT-2020さらにKT-1100DやD-3300Tといったシンセサイザ式チューナーにもそのままずっと使われていった部品と思われます.他にもチューニングノブもその直径(約46mm)や質感から,これもやはり同様にKENWOODのシンセサイザ式チューナーにそのまま使われ続けた部品と思います.

 このようなことから,TRIO/KENWOODらしいデザインをずっと続けて行ったとも言えますが,バリコン式の部品(デザイン)をそのまま何年も使い続けるということは,スペックはいいものの,外観に関するこだわりはあまりないメーカーとも言えます.(そう考えると,TRIO KT-990のような外観にこだわった機種は貴重と言えるかもしれません.)

 なお,当ページのTRIO KT-2200の評価ですが,所有するKT-2200は2015年に調整を行ってもらい,少なくとも数値上は初期性能を発揮している個体を聴いています.自信を持って良い機種とお勧めできます.(2016年2月5日記述,201810月7日加筆修正)

TRIO KT-2200 規格
型式 FMステレオチューナー
<FMチューナー部>
SN比50dB感度(IHF/新IHF) 1.7μV/15.9dBf(Distance,mono)
20μV/37.3dBf(Distance,stereo)
5μV/25.2dBf(Direct,mono)
60μV/46.8dBf(Direct,stereo)
感度(IHF/新IHF) 0.9μV/10.3dBf(Distance)
4.0μV/23.3dBf(Direct)
アンテナインピーダンス 75Ω不平衡
高調波歪率
Wide,mono: 0.005%(100Hz)
0.005%(1kHz)
0.02%(15kHz)
0.04%(50Hz〜10kHz)
Wide,stereo: 0.02%(100Hz)
0.015%(1kHz)
0.2%(15kHz)
0.09%(50Hz〜10kHz)
Narrow,mono: 0.007%(100Hz)
0.05%(1kHz)
0.03%(15kHz)
1.3%(50Hz〜10kHz)
Narrow,stereo: 0.1%(100Hz)
0.1%(1kHz)
2.0%(15kHz)
0.7%(50Hz〜10kHz)
SN比(85dBf入力) mono:96dB
stereo:86dB
キャプチャーレシオ 2.0dB(Narrow)
0.8dB(Wide)
実効選択度 55dB(±300kHz,Narrow)
40dB(Wide)
ステレオセパレーション
Wide: 60dB(1kHz)
47dB(50Hz〜10kHz)
Narrow: 40dB(1kHz)
35dB(15kHz)
周波数特性 15Hz〜15kHz±0.5dB
イメージ妨害比 90dB(84MHz)
IF妨害比 120dB(84MHz)
スプリアス妨害比 110dB(84MHz)
AM抑圧比 75dB
サブキャリア抑圧比 75dB
出力レベル/インピーダンス(1kHz,100%Dev) 0.6V/2kΩ(Fixed)
1.2V/2kΩ(Variable)
マルチパス 0.1V/10kΩ(垂直)
0.7V/10kΩ(水平)
<総合>
定格消費電力 11W(電気用品取締法)
電源 AC100V,50Hz/60Hz
外形寸法 幅440×高さ111×奥行337mm
重量 5.4kg

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