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アビエス・リサーチ制作雑記

ALPINE / LUXMAN T-117 (AM/FM/TVステレオチューナー)

(2016年7月19日作成)

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ALPINE / LUXMAN AM/FM/TV STEREO TUNER T-117 (2016年3月撮影)

ALPINE / LUXMAN AM/FM/TV STEREO TUNER T-117 (2016年3月撮影)

ALPINE / LUXMAN T-117 評価表

 1987年発売,定価59,800円のALPINE / LUXMAN製シンセサイザー式FM/AM/TVチューナーです.ALPINE / LUXMAN T-117の全体写真は他サイトなどで画像は見られますので,ここではフロントパネルの蛍光管表示部とプリセットメモリボタン周辺を掲載しました.

 ALPINEといえば,カーオーディオメーカーとしても有名です.アルプス電気の子会社ですが,1980年代に高級オーディオメーカーのLUXMANと提携し,ALPINE / LUXMANブランドでホームオーディオに参入していた時期がありました.親会社のアルプス電気は,FMチューナーのバリコンやフロントエンドなどを生産しており,さまざまなメーカーに部品供給していました.そういったノウハウを持ったアルプス電気グループのALPINEと,高級オーディオとして国内外で知名度,販売網を持っていたLUXMANが提携して開発,製造,販売していたわけですが,T-117は従来のチューナーという枠にとらわれない,もの凄くユニークな構成になっています.

 本機のFMチューナー検波部は基本的にはパルスカウント検波ですが,弱電波受信時には自動的にPLL検波に切り替わります.検波方式を2つ載せ,しかもそれらの選択を自動で行うという構成になっています.

 チューナーの音質やデザインについて,5段階(0.5点刻み)で評価を行い,右のようなレーダーチャートにまとめることにしました.評価項目について,簡単に説明します.なお,評価はすべてFMだけであり,AM部は評価の対象外です.

 ヌケ: 主に中高音域の音質,特に伸びと分離についての評価です.ヌケの良いチューナーは高音成分が良く聴こえ,すっきりした良音を奏でます.

 迫力: 主に低音域の音質です.楽器全般に言えることですが,低音をきれいに,きちんと出すことは難しいです.弦楽器もヴァイオリンよりチェロの方が良い音を出すのははるかに難しく,金管楽器にも同じことが言えます.歌も同じです,中高音域で歌うのは平易ですが,地声の限界近くの超低音をきちんと鳴らすのは大変です.良いチューナーは低音が像感を持って,迫力ある音で出てきます.

 情報量: FMチューナーは無線の受信機と言えます.搬送波に乗っているFM波をきちんと捉え,検波,増幅する機械です.良い受信,検波,増幅あるいは左右チャンネル分離性能を持ったチューナーは元々のFM波が持っている情報をきちんと音声信号に変換していきます.情報量の多少はチューナーの性能そのものとも言えます.

 音像感: 音声をステレオ再生すると,音像に立体感が生まれ,楽器や演奏者の位置,音の響き,音の強弱など,微妙なニュアンスが感じられるようになります.ステレオセパレーションの値自体も大事ですが,オーディオの世界はその値に比例して音像感が良くなるほど甘いものではなく,楽器それぞれが持つニュアンスや色調の違いをうまく表現したチューナーは,音像感がグっと良くなります.

 所有満足度: デザイン,操作性が良く,堅牢で動作が安定していて,音も良い,となれば,チューナーの所有満足度も上がります.ただ単に「音が良い」「デザインが良い」だけではダメです.チューナーのデザインには部屋が明るい時のルックスもありますが,部屋を暗くしたときに浮かび上がる周波数表示やシグナルメーターなどもデザインの良し悪しに繋がってきます.ボタンやノブの操作フィーリング,パネルや端子の作りなども所有満足度を左右する要素です.

 デザイン: 前述の所有満足度と類似しますが,何台ものチューナーを所有すると,置く場所にだんだん困ってきます.大きくても作りが良くて音も良ければ許せますが,もっと小さく出来るはず・・・といった機種もあります.可能であれば高さも薄くて奥行もそれほどなく,それでいて堅牢で操作性やルックスもいいチューナーが良いチューナーということになります.ルックスも機械然とした良さがあったり,ボタンの配置バランスが良かったり,蛍光表示パネルが良かったり,それらが長寿命設計になっているか,なども評価の基準になってきます.

総評
 T-117の音は良いです.強電界受信でのパルスカウント検波の音は歪の極めて少ない,爽やかで軽快な音がします.遠距離局等の弱電波時にはPLL検波に自動で切り替わります.検波方式が切り替わった表示等は一切ないため,実際にどちらで検波した音なのか,実は判断付きませんが,逆に言うとどの局もストレスなく,ノイズもビートも少ない聴きやすい音で受信してくれます.

 このチューナーが発売された1987年当時に重宝されたのは,TVチューナー部かもしれません.本機はテレビ(当時の地上アナログ放送)の音声多重放送に対応しています.テレビは旧製品でモノラルでも,このチューナーをオーディオセットに組み込んでテレビの音声を消し,本機で受信した音声でテレビの音を楽しむことが出来たはずです.

 当時,テレビとFMチューナーを組み合わせるメリットは他にもありました.1980年代はテレビのステレオ放送もやっと整備され始めた時期です.NHK教育テレビに関しては,ステレオ放送化されたのが1990年のようです.例えば「N響アワー」はそれまでモノラル放送だったため,1985年からの再放送(日曜日の午後2時から)ではNHK-FMでも音声をステレオで同時放送していました.

 つまり,テレビではモノラル音声のみだったため,ステレオで楽しみたい人は同時にFMチューナーでNHK-FMを受信し(あるいは録画と録音してあとで同期再生させて),ステレオ音声を楽しむ,というものでした.

 現在の感覚からすると想像できませんが,当時はテレビは音声なんてモノラルで充分,といった土壌があったようです.映画もまた然りで,1984年公開のアニメーション映画「風の谷のナウシカ」はモノラルでした.映画もテレビも映像が主で,音声は「モノラルで付いていれば充分」という考えだったのでしょうし,なにより映画館も放送局もテレビ受像機(受信機ではなく,テレビは受像機と言うことから)も,ステレオに対応するにはそれなりにお金がかかることだったのです.

 このような時代背景からも,1980年代まではFMステレオ放送がいかに重要な音楽ソースだったか,ということも分かります.民放も含めて質の高い音楽番組が放送され,各社が競って高音質のFMチューナーを開発,発売していったことが,こんな面からも知ることが出来ます.

 T-117のようなAM/FM/TVチューナーは当時特に珍しいものではなく,SONYやKENWOODも発売していました.T-117は高さがたったの62mmと筐体が薄型で,設置が楽です.薄型で黒いデザイン,そして音質も本機の約2年前に発売されたKENWOOD KT-1010Fにかなり似ています.

 webでT-117の情報を渉猟していくと,海外でも本機が発売されていたことが分かりましたが,日本とは異なり「LUXMAN」単独ブランドで発売されていたらしいことや,発売対象国の放送事情もあってか,機種によってはAM部がなく,代わりにVHFとUHFの選択が可能になっていたりしているようです.

 なお,当ページのALPINE / LUXMAN T-117の評価ですが,所有するT-117は一通りの調整は行っていないものの,特に周波数ズレといった不具合は起こしていない個体を聴いています.自信を持って良い機種とお勧めできます.(2016年7月19日記述)

ALPINE / LUXMAN T-117 規格
型式 FM/AM/TVチューナー
<FMチューナー部>
IHF実用感度 8.8dBf
S/N比 mono:88dB
stereo:78dB
周波数特性 20Hz〜15kHz ±1.0dB以内
歪率 mono:0.04%
stereo:0.05%
選択度 45dB(±400kHz)
IF妨害比 110dB
イメージ妨害比 80dB
ステレオセパレーション 60dB(1kHz)
45dB(100Hz)
ミューティングレベル 16dBf
出力電圧 700mV
<AMチューナー部>
IHF実用感度 58dB/m
S/N比 50dB
歪率 0.4%
出力電圧 210mV
<TVチューナー部>
実用感度 VHF:16dBf
UHF:20dBf
S/N比 65dB
歪率 mono:0.4%
stereo:0.5%
<総合>
消費電力 15W
外形寸法 幅438×高さ62×奥行323mm
重量 3.6kg
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