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KENWOOD FM STEREO TUNER L-01T (2016年7月撮影)
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KENWOOD FM STEREO TUNER L-01T (2016年7月撮影)
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KENWOOD L-01T 評価表
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1979年発売,定価160,000円,TRIOがKENWOODブランドで登場させたバリコン式FMチューナーです.KENWOOD L-01Tの全体写真は他サイトなどで画像はたくさん見られますので,ここでは1枚目にSIGNAL・TUNINGインジケータ周辺部を,2枚目に機能ボタンと同調ノブ周辺部を掲載しました.
本機の特徴はいろいろあります.パルスカウント検波,サンプリングホールドMPX,非磁性体構造などが挙げられますが,フロントパネルを覆う厚さ10mm(実測)のスモークドアクリル板の奥に,周波数のダイヤルパネルやSIGNAL・TUNINGメータ,STEREO表示ランプなどが入っており,電源を入れて照明が灯るとそれらがアクリル板を通して浮かび上がってくるという構造になっています.
非磁性体構造も独特です.例えばサイドフレームはアルミ,パネルの一部は強化ナイロン,底板や天板の一部は木製(パーティクルボード)といった具合です.そのため,見た目は巨大な筐体ですが,実際持ち上げると意外に軽く感じます(といっても9.1kgもありますが).
前年(1978年)にTRIOブランドで発売されたKT-9900(定価200,000円)と多くの部分で共通したシステムを持って登場しましたが,デザインを大幅に変え,非磁性体ボディとし,そして日本国内では初めて「KENWOOD」というブランド名を冠して登場させたのがこのL-01Tです.
ブランド名だった「KENWOOD」は後にTRIOの社名へと発展していきましたが,本機のフロントパネル左下には葉をモチーフにしたと思われるTRIOのマークに続き,その右側に「KENWOOD」というブランド名が印字してあります.
このチューナーは高価なわりには良く売れたようで,現在でも多くの中古が出回っています.「KENWOOD」を冠した製品はTRIOブランドで店頭に並んでいたものよりもよく売れたらしく,後に社名を変えるまでに至る記念碑的ブランド名とも言えます.
チューナーの音質やデザインについて,5段階(0.5点刻み)で評価を行い,右のようなレーダーチャートにまとめることにしました.評価項目について,簡単に説明します.なお,評価はすべてFMだけであり,AM部は評価の対象外です.
ヌケ: 主に中高音域の音質,特に伸びと分離についての評価です.ヌケの良いチューナーは高音成分が良く聴こえ,すっきりした良音を奏でます.
迫力: 主に低音域の音質です.楽器全般に言えることですが,低音をきれいに,きちんと出すことは難しいです.弦楽器もヴァイオリンよりチェロの方が良い音を出すのははるかに難しく,金管楽器にも同じことが言えます.歌も同じです,中高音域で歌うのは平易ですが,地声の限界近くの超低音をきちんと鳴らすのは大変です.良いチューナーは低音が像感を持って,迫力ある音で出てきます.
情報量: FMチューナーは無線の受信機と言えます.搬送波に乗っているFM波をきちんと捉え,検波,増幅する機械です.良い受信,検波,増幅あるいは左右チャンネル分離性能を持ったチューナーは元々のFM波が持っている情報をきちんと音声信号に変換していきます.情報量の多少はチューナーの性能そのものとも言えます.
音像感: 音声をステレオ再生すると,音像に立体感が生まれ,楽器や演奏者の位置,音の響き,音の強弱など,微妙なニュアンスが感じられるようになります.ステレオセパレーションの値自体も大事ですが,オーディオの世界はその値に比例して音像感が良くなるほど甘いものではなく,楽器それぞれが持つニュアンスや色調の違いをうまく表現したチューナーは,音像感がグっと良くなります.
所有満足度: デザイン,操作性が良く,堅牢で動作が安定していて,音も良い,となれば,チューナーの所有満足度も上がります.ただ単に「音が良い」「デザインが良い」だけではダメです.チューナーのデザインには部屋が明るい時のルックスもありますが,部屋を暗くしたときに浮かび上がる周波数表示やシグナルメーターなどもデザインの良し悪しに繋がってきます.ボタンやノブの操作フィーリング,パネルや端子の作りなども所有満足度を左右する要素です.
デザイン: 前述の所有満足度と類似しますが,何台ものチューナーを所有すると,置く場所にだんだん困ってきます.大きくても作りが良くて音も良ければ許せますが,もっと小さく出来るはず・・・といった機種もあります.可能であれば高さも薄くて奥行もそれほどなく,それでいて堅牢で操作性やルックスもいいチューナーが良いチューナーということになります.ルックスも機械然とした良さがあったり,ボタンの配置バランスが良かったり,蛍光表示パネルが良かったり,それらが長寿命設計になっているか,なども評価の基準になってきます.
総評
L-01Tの音は良いです.何より驚かされたのが,その情報量の多さです.こんなに細かい,ほんの「些細な」音まで聴こえてしまうチューナーは本機が初めてでした.チューナーの音を「顔」に例えると,他のチューナーではその表情や色彩を表現しているとすると,このチューナーはさらに細かな皺やホコリまでをも表現してしまっているような感じです.
音色は私の手元にあるTRIO KT-990(1982年発売・定価53,800円)にソックリです.発売年は3年のずれがありますが,同じTRIO/KENWOODのパルスカウント検波です.当たり前と言ってしまえばそれまでかもしれませんが,TRIOの,パルスカウント機としての音が,両機からきちんと表現されているわけであり,これは驚愕に値することと思います.
しかし,情報量と高音の伸び,低音の響きがKT-990とは明らかに違います.広く,雄大に音が出ています.ところが,音色は本当に瓜二つです.図形でいうと完全な相似形という「音」が両機からします.
KT-990もそうでしたが,浮遊感ある独特の音がします.特にL-01Tはそれが顕著で,まるで無響室の中でオーディオを聴いているような錯覚がします.体がフワフワ浮いているような感じになり,独特の音世界に連れて行かれる感覚がします.
音の分離は良くないです.定位感が乏しく,すべての音が平面的に聴こえます.本機は調整によってセパレーションは左右で60dB超え(WIDE, 1kHz)が確保できているので,決して性能不足ではないはずです.
もう一つの音の特徴として,ボリュームを絞って聴いていると,低音があまり聴こえません.ところが,ボリュームを上げていくと,しっかりと低音が鳴り,前述のように細かい音が,まさに絢爛に奏でられます.
デザインはブラックの筐体にスモークドアクリル(ブラック)のフロントパネルが覆い,各表示部やインジケーターランプがパネル内に灯り,部屋を暗くして本機の電源を入れると,当ページの写真のように無茶苦茶にカッコいいです.しかし,非磁性体ボディは言いようによってはプラスチックにアクリル,さらに木屑を固めたもの,という構成です.そういった素材の加工しやすさがデザインの自由性に結び付いたとも言えますが,オーディオ機器としての何かが欠如した印象も否めません.
大きさですが,高さ136mm,奥行き452mmはあまりにも大きすぎます.本機の電源トランスはしっかりシールドされたものが2個搭載されており,フロントエンドへの電源と,検波部及びMPX回路への電源を切り分け,局部発振回路の変調波が検波回路やMPX回路へフィードバックしてノイズの原因となることを極力避ける設計になっています.こういった豪華な回路を入れるには大きな筐体が必要なことは分かりますし,2電源構成のためか,本機を使っているとかなりの発熱があることから,巨大な筐体にせざるを得なかった事情も分かりますが,少なくとも高さがありすぎてバランスとしては良いデザインと言えません.(定格消費電力50WはFMチューナーとしては破格に大きい値です)
大きさをやや批判してしまいましたが,こんなにも豪華な回路のチューナーはもう開発も発売もされないでしょう.1979年,すでにFMチューナーで定評があったTRIOという名を表向き出さず,国内向けにもブランド名の「KENWOOD」を冠し,デザインも,回路も超意欲的に開発したFMチューナーとして,やはりFMファンであれば是非とも所持したい1台であることは間違いありません.
本機の技術を延長させながらも,検波方式をPLL検波に変更し,さらにノンスペクトラムIFを開発・登載したL-02T(定価30万円)は,本機の本当の意味での「後継機」と言えます.このように,L-01Tは発売から3年後の1982年に超弩級機・L-02Tへと発展したと考えると,TRIO/KENWOODの歴史,さらにFMチューナーの歴史を鑑みても極めて重要な位置にあったチューナーです.
なお,当ページのKENWOOD L-01Tの評価ですが,所有するL-01Tは2016年に調整を行ってもらい,性能上特に問題ない個体を聴いています.自信を持って良い機種とお勧めできます.(2016年7月21日記述)
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