岩泉行きの列車が岩手和井内を出ると,しばらくは民家も畑もある風景が続くが,やがて谷幅が狭くなって,いつしか民家がほとんどなくなって山林ばかりの車窓になる.トンネルも突如増加して勾配もきつくなり,明らかにそれまでとは異なってくる.押角駅は山の中に忽然と現れる木製片面ホームの駅で,付近に民家はほとんどなく,駅の必要性が別のところにありそうなオーラを放っている.押角の開業は昭和19年7月で,特に太平洋戦争で需要が増大した耐火粘土の積み出し駅としてスタートしたという.駅周辺も非常に勾配がきついため,スイッチバック配線,それもZ形のスイッチバック線形をしていたらしい.山田線の大志田,浅岸もスイッチバック駅だが,かつて駅ホームがなかった側の引き上げ線は,両駅とも「盛り土」をして線路を敷設していたことが現在の遺構から分かるが,押角は用地がなかったため,引き上げ線を設けるのに急峻な山を切って設置したことが現在の遺構から分かった.掘削した法面部分はほとんど崖そのものであり,線路が山にへばりつくようにして敷設してあったに違いない.
写真を見るとホーム長は2両分もないのに,駅名標が2つも立っている.ホーム奥から右手に分岐する線がかつてスイッチバックだった名残で,旧ホームはこの線路の先に残っている.駅から岩泉方面(写真奥)を見るとかなりの勾配があることが分かるが,いきなり30‰の勾配が現れる.また広いモルタル吹付斜面の左奥に,白いガードレールのようなものが見えるが,ここを国道340号が走っており,岩泉線屈指の有名俯瞰撮影ポイントとなっている.駅周辺は秋になればご覧のように見事な紅葉が見られるが,裏を返せばその落ち葉による車輪の空転が発生しやすい箇所でもある.
|