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TRIO AM/FM STEREO TUNER KT-990 (2016年1月撮影)
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TRIO KT-990 評価表
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1982年発売,定価53,800円のTRIOバリコン式FM/AMチューナーです.TRIO KT-990の全体写真は他サイトなどで画像はたくさん見られますので,ここでは電源,機能ボタン周辺部と周波数表示の一部のみ掲載しました.
KT-990はTRIOが5万円前後で発売していたバリコン式中級機では最終型番となりました.TRIO/KENWOODは翌1983年に,7万円から10万円前後のバリコン式高級機(KT-1100,KT-2200,L-03T)を出しましたが,5万円前後の機種に関してはすべてシンセサイザー式へと移行しました.
KT-990の外観上の大きな特徴は,周波数表示部一帯に分厚い強化ガラスを用いたパネルです.TRIOでこのようなガラスパネルを用いたデザインのパルスカウント検波機は,KT-1000(1980年発売・定価69,800円),KT-900(1980年発売・定価49,800円)に始まり,1982年発売の本機の計3機種のみで終焉となりました.
バリコン式チューナーと言えば,周波数表示部のみ横長の窓のようにしたデザインがほとんどでしたが,大きなガラスパネルを採用したTRIOのこれらの機種はデザインが優れており,特にKT-900とKT-990はガラスパネルの高さとほぼ同じ薄型サイズに筐体がまとめられ,スタイリッシュですっきりしたデザインは好感が持てます.
チューナーの音質やデザインについて,5段階(0.5点刻み)で評価を行い,右のようなレーダーチャートにまとめることにしました.評価項目について,簡単に説明します.なお,評価はすべてFMだけであり,AM部は評価の対象外です.
ヌケ: 主に中高音域の音質,特に伸びと分離についての評価です.ヌケの良いチューナーは高音成分が良く聴こえ,すっきりした良音を奏でます.
迫力: 主に低音域の音質です.楽器全般に言えることですが,低音をきれいに,きちんと出すことは難しいです.弦楽器もヴァイオリンよりチェロの方が良い音を出すのははるかに難しく,金管楽器にも同じことが言えます.歌も同じです,中高音域で歌うのは平易ですが,地声の限界近くの超低音をきちんと鳴らすのは大変です.良いチューナーは低音が像感を持って,迫力ある音で出てきます.
情報量: FMチューナーは無線の受信機と言えます.搬送波に乗っているFM波をきちんと捉え,検波,増幅する機械です.良い受信,検波,増幅あるいは左右チャンネル分離性能を持ったチューナーは元々のFM波が持っている情報をきちんと音声信号に変換していきます.情報量の多少はチューナーの性能そのものとも言えます.
音像感: 音声をステレオ再生すると,音像に立体感が生まれ,楽器や演奏者の位置,音の響き,音の強弱など,微妙なニュアンスが感じられるようになります.ステレオセパレーションの値自体も大事ですが,オーディオの世界はその値に比例して音像感が良くなるほど甘いものではなく,楽器それぞれが持つニュアンスや色調の違いをうまく表現したチューナーは,音像感がグっと良くなります.
所有満足度: デザイン,操作性が良く,堅牢で動作が安定していて,音も良い,となれば,チューナーの所有満足度も上がります.ただ単に「音が良い」「デザインが良い」だけではダメです.チューナーのデザインには部屋が明るい時のルックスもありますが,部屋を暗くしたときに浮かび上がる周波数表示やシグナルメーターなどもデザインの良し悪しに繋がってきます.ボタンやノブの操作フィーリング,パネルや端子の作りなども所有満足度を左右する要素です.
デザイン: 前述の所有満足度と類似しますが,何台ものチューナーを所有すると,置く場所にだんだん困ってきます.大きくても作りが良くて音も良ければ許せますが,もっと小さく出来るはず・・・といった機種もあります.可能であれば高さも薄くて奥行もそれほどなく,それでいて堅牢で操作性やルックスもいいチューナーが良いチューナーということになります.ルックスも機械然とした良さがあったり,ボタンの配置バランスが良かったり,蛍光表示パネルが良かったり,それらが長寿命設計になっているか,なども評価の基準になってきます.
総評
KT-990の音は良いです.パルスカウント検波の特徴なのか,すっきりとした音がします.音を細かい粒子で聴かせてくれるような感じです.このような音はCDにもアナログレコードにも磁気テープにもないもので,パルスカウント検波のFMチューナーだけが奏でてくれる新鮮な音です.聴いていてすがすがしく,楽しめます.
本機の音はどちらかと言えば軽く,低音はあまり強くは出ません.しかし高音は伸びが良く,セパレーションも非常に良いです.同じパルスカウント検波で,価格帯もほぼ同じPioneer F-120Dと比較すると,音の芯はF-120Dの方が強く,しっかりとした音が出ていますが,伸び伸びした高音とヌケの良さはKT-990の方が良いです.どちらの機種も良い音ですが,私はKT-990の浮遊感ある音の方が好きです.楽しめます.デザインもKT-990の方が圧倒的に優れていると思います.
厚さ約4mmもあるガラスパネルを支える構造の自由度や,価格帯との兼ね合いからか,本体はプラスチック部品を多用しています.サイドから天板にかけてのカバーも薄いペラペラの鉄板で,さらにそれを支えるフロント側のパネルがプラスチックのため,本機の上にある程度の重さの他機を載せたであろうものは鉄板が反りかえるだけでなく,プラ部品の鉄板との接合部に割れが生じているものもあるようです.中古で入手する際は筐体の破損等がないかも重要なチェックポイントになります.
KT-990には周波数同調点を最適点に自動的に引き込むチューニングロック機構(サーボロック機構)があります.当ページの写真には写っていませんが,チューニングノブを触れている間はチューニングサーボがOFFになり,同調点でノブから手を離すとロックされます.同調点は写真にも写っているLEDのチューニングインジケーターで確認できますが,このLEDが同調点から大きく外れている場合は赤,同調点に近づくと橙色になり,同調してサーボロックがかかると緑色に変化する凝った作りになっています.
なお,サーボロック時にはチューニングノブ左のガラスパネル内にある「SERVO LOCK」ランプが点灯するのですが,このランプ表示部が高さ1mm程度に対して幅45mm程度もあってやけに大きく,SERVO LOCK中はずっとこれが点灯するのですが,この点灯表示部はセンスが悪く,残念です.(そのようなこともあり,このランプ部分の写真は当ページに掲載していません.)
ただ,全体として見ると,ガラスパネルの奥に周波数表示などが収まったフロントパネルは,私は抜群に良いデザインと思います.プラスチック多用で構造的に弱く,この点は批判も多くあるようですが,デザインの素晴らしさがそれらを挽回しており,私は大変に気に入っている機種です.本体の高さも78mmしかなく,外観などもソックリなKT-900に比べて奥行(KT-990:390mm,KT-990:337mm)が53mmも短くなっているので取り回しが楽です.さらに音も良いので,私の評価のデザイン,所有満足度は比較的高い得点を付けました.
音質に関して,パルスカウント検波の特徴と思われるすっきりとした音,と前述しましたが,Accuphase T-108等のDGL検波もパルスカウント検波の一種です.しかし,T-108が「すっきりした音」かと言えば,それだけということは決してなく,生々しい重厚な音です.TRIO/KENWOODのパルスカウント検波機でも,本機のような低価格帯の機種ではなく,KT-9900(1978年発売・定価200,000円・重量15kg)やL-01T(*)(1979年発売・定価160,000円・重量9.1kg)といった弩級パルスカウント検波チューナーからは,一体どんな音がするのか,大変に興味があります.是非聴いてみたいです.(*)KENWOOD L-01Tは後に入手し,当サイトでも紹介しました.
なお,当ページのTRIO KT-990の評価ですが,所有するKT-990は2015年に調整を行ってもらい,少なくとも数値上は初期性能を発揮している個体を聴いています.自信を持って良い機種とお勧めできます.(2016年2月4日記述,2016年7月20日加筆修正)
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