TOP更新情報カテゴリ路線別列車別鉄道サウンド切符リンク集岩手県の魅力当サイトについて撮影機材

アビエス・リサーチ制作雑記

YAMAHA T-9 (FMステレオチューナー)

(2016年7月21日作成)

「アビエス・リサーチ制作雑記」へ戻る

「音響機器」へ戻る


YAMAHA AM/FM STEREO TUNER T-9 (2016年7月撮影)

YAMAHA T-9 評価表

 1979年発売,定価98,000円のYAMAHAバリコン式FMチューナーです.YAMAHA T-9の全体写真は他サイトなどで画像はたくさん見られますので,ここでは周波数デジタル表示部やSIGNAL QUALITY周辺部のみ掲載しました.

 YAMAHAのFMチューナーのうち,T-9とT-7にはモータードライブプリセットチューニングという,機械式のプリセット機構が登載されていました.プリセットしたい局の受信周波数に対応するバリコンの回転角度を1024分の1(10bit)の分解能でデジタル値に変換して記憶させるという,現在の感覚からすると凄まじい機構を持つシステムです.

 これが正常動作するチューナーでは,メモリしたボタンを押すと,チューニングノブが回転しながらプリセット局付近までモーターで指針が自動的に移動し,プリセット局付近になると最適チューニング位置を探りながらストップするという機構らしいのですが,残念ながら私の手元にある本機はその機構は故障しており,プリセットチューニングについては実見も評価も出来ません.

 プリセットチューニングもすごい機構ですが,ここでは本機のFMの音を中心に評価していきたいと思います.1979年にYAMAHAから全6ページに亘るT-9のカタログ(2色刷り)が出ており,現在はweb上でそのPDFを閲覧することが可能です.そこからは,メーカー名を名指しこそしていないものの,TRIOのパルスカウント検波やサンプリングホールドMPX機構に対するあからさまな挑戦的態度を読み取ることができます.ここにそのカタログから一部をそのまま(誤字のみ訂正して)抜粋します.

 「検波段で,パルスカウント方式に対するヤマハのチューナ技術からの見解は,理論上の直線性は良いけれど,肝心の情報伝送能力に欠けているためオーディオ・チューナには適さない,通信機用の過去の技術−ということです.

 これに対して,New Tシリーズで開発したDCスタビライザ装備のウルトラ・リニア・ダイレクト・デコーダは,一方で,FM100%変調に対応する150kHzに対して1200kHzという広い帯域にわたって微分利得偏差も含めて極めてリニアな検波特性を持ち,一方で,1〜2MHzにビートダウンするパルスカウント方式に比べて10.7MHzをダイレクト検波するため,復調周波数範囲で10倍,情報伝送能力で5〜10倍という卓越性です.

 10.7MHzのIF信号を1〜2MHzにビートダウンする方式では,回路的にははるかに複雑化するため伝送能力が落ち,また特性的には録音テープで言えばテープ・スピードを1/5〜1/10に落としたのと等化で,そのまま情報伝送能力が1/5〜1/10に落ちてしまいます:

 復調段で,サンプリングホールド方式に対するヤマハのチューナ技術の見解は,非直線抵抗でコンデンサを充放電してスイッチするため過渡特性に欠点があり,アンプの動作で言えばC級動作で,オーディオ・アンプとしては見捨てられた過去の技術−ということです」

 これを読んでしまうと,ではYAMAHA T-9は一体どんな音のチューナーなの?という興味が湧いてきます.そこでT-9の中古を探し求め,ついにその音を聴くことが出来ましたのでご紹介します.

 チューナーの音質やデザインについて,5段階(0.5点刻み)で評価を行い,右のようなレーダーチャートにまとめることにしました.評価項目について,簡単に説明します.なお,評価はすべてFMだけであり,AM部は評価の対象外です.

 ヌケ: 主に中高音域の音質,特に伸びと分離についての評価です.ヌケの良いチューナーは高音成分が良く聴こえ,すっきりした良音を奏でます.

 迫力: 主に低音域の音質です.楽器全般に言えることですが,低音をきれいに,きちんと出すことは難しいです.弦楽器もヴァイオリンよりチェロの方が良い音を出すのははるかに難しく,金管楽器にも同じことが言えます.歌も同じです,中高音域で歌うのは平易ですが,地声の限界近くの超低音をきちんと鳴らすのは大変です.良いチューナーは低音が像感を持って,迫力ある音で出てきます.

 情報量: FMチューナーは無線の受信機と言えます.搬送波に乗っているFM波をきちんと捉え,検波,増幅する機械です.良い受信,検波,増幅あるいは左右チャンネル分離性能を持ったチューナーは元々のFM波が持っている情報をきちんと音声信号に変換していきます.情報量の多少はチューナーの性能そのものとも言えます.

 音像感: 音声をステレオ再生すると,音像に立体感が生まれ,楽器や演奏者の位置,音の響き,音の強弱など,微妙なニュアンスが感じられるようになります.ステレオセパレーションの値自体も大事ですが,オーディオの世界はその値に比例して音像感が良くなるほど甘いものではなく,楽器それぞれが持つニュアンスや色調の違いをうまく表現したチューナーは,音像感がグっと良くなります.

 所有満足度: デザイン,操作性が良く,堅牢で動作が安定していて,音も良い,となれば,チューナーの所有満足度も上がります.ただ単に「音が良い」「デザインが良い」だけではダメです.チューナーのデザインには部屋が明るい時のルックスもありますが,部屋を暗くしたときに浮かび上がる周波数表示やシグナルメーターなどもデザインの良し悪しに繋がってきます.ボタンやノブの操作フィーリング,パネルや端子の作りなども所有満足度を左右する要素です.

 デザイン: 前述の所有満足度と類似しますが,何台ものチューナーを所有すると,置く場所にだんだん困ってきます.大きくても作りが良くて音も良ければ許せますが,もっと小さく出来るはず・・・といった機種もあります.可能であれば高さも薄くて奥行もそれほどなく,それでいて堅牢で操作性やルックスもいいチューナーが良いチューナーということになります.ルックスも機械然とした良さがあったり,ボタンの配置バランスが良かったり,蛍光表示パネルが良かったり,それらが長寿命設計になっているか,なども評価の基準になってきます.

総評
 T-9の音は素晴らしく良いです.パルスカウント検波やサンプリングホールドをこてんぱんに貶していますが,その挑戦的態度に充分応えられる素晴らしい音がします.音の分離,定位が猛烈に良いです.音が生き生きしています.

 T-9のカタログでは「ウルトラ・リニア・ダイレクト・デコーダ」と言っていますが,これは広帯域レシオ検波のことと思われます.私はYAMAHAのチューナーはT-1T-2T-2000とすべてレシオ検波機を聴いてきましたが,YAMAHAのこの検波方式の特徴として,アコースティック系楽器の音が良く,弦楽器,木管楽器の音がリアルに,美しい音で聴こえてきます.T-9では声楽もとても音が美しいです.

 T-9の特徴として,ボリュームを絞って弱音で聴いていても音の立ち上がりが良く,低音から高音まで粒立ちよく音を聴くことが出来ます.生き生きした音で,定位も良いです.

 T-9のカタログに記述されているパルスカウントやサンプリングホールドといった技術は,決して「過去の」劣るような技術とは思いません.TRIOのそれらのシステムを搭載したFMチューナーは極めて良い音がします.

 但し,本サイトのTRIO KT-2200のページに,「このような(KT-2200の)音の対極の音作りをしたチューナーは,YAMAHA T-2かもしれません」と書きました.実際,YAMAHAはTRIO/KENWOODとは全く異なるチューナーの音作りを目指していたものと確信します.

 T-9のカタログの記述は両メーカで技術者間の,あるいは営業サイドにおいての,何かぎくしゃくした関係があっての挑戦的記述かもしれませんが,いずれにしてもTRIOとYAMAHAで全然違う検波方式,音色,音質のFMチューナーが開発されていったことは,FMファンの立場からすれば幸せなことでした.もうこのようなFMチューナーの,というかオーディオ機器の開発競争が二度と起きないであろうことは寂しい限りです.

 T-9のデザインは,電源ボタンや各機能ボタンがプラスチックにメッキ?されたものになっているようで,経年でボタンに緑青状のサビが浮いている個体がほとんどですし,なによりボタン(スイッチ)がT-1やT-2に比較して明らかに安物に変わっており,ボタン操作はクニャクニャした安っぽいものになっています.また,サイドと天板は恐らくこれもプラスチックです.

 周波数パネルはT-1やT-2はバックライトによって内部から電照される方式でしたが,T-9はアルミ製の周波数目盛板をフロントパネルに貼り付けただけで(海外向けの製品はこの目盛板の周波数帯域を変えたものを貼り付ければ済む),電照式をやめてこれもコストカットしています.

 周波数のデジタル表示や,周波数指針のチューニングインジケータLED(同調点が近づくと左右それぞれが点灯し始め,最適周波数にロックするとLEDがより明るく点灯する)のデザインはさすがYAMAHAならではの微細さと上品さを備えたもので,アルミのフロントパネルも全体的にすっきりとまとめられ,上品なYAMAHAデザインを纏った姿は,コストダウンをさせながらも,さすがと思わせられます.

 なお,当ページのYAMAHA T-9の評価ですが,所有するT-9は2016年に調整を行ってもらい,性能上問題ない個体を聴いています.自信を持って良い機種とお勧めできます.(2016年7月21日記述)

YAMAHA T-9 定格
型式 FMステレオチューナー
受信周波数 76MHz〜90MHz
50dBSN感度 mono:3.2μV(15.3dBf,DXポジション)
stereo:20μV(31.2dBf,Super DX Blend on)
     38μV(36.8dBf,DX Blend off)
実用感度
(IHF,mono,84MHz)
300Ω:1.8μV(10.3dBf)
75Ω:0.9μV(10.3dBf)
イメージ妨害比(84MHz) 120dB
IF妨害比(84MHz) 120dB
スプリアス妨害比(84MHz) 120dB
AM抑圧比(IHF) 68dB
実効選択度
±400kHz Local/DX:30dB/80dB
Super DX:100dB
±200kHz DX/Super DX:18dB/30dB
SN比 mono:92dB
stereo:85dB
全高調波歪率
Local DX
mono 100Hz:
1kHz:
6kHz:
10kHz:
0.02%
0.03%
0.05%
0.03%
0.08%
0.15%
0.3%
0.08%
stereo 100Hz:
1kHz:
6kHz:
10kHz:
0.04%
0.04%
0.06%
0.07%
0.5%
0.4%
0.6%
0.8%
IM(混変調)歪率(IHF)
Local DX
mono:
stereo:
0.03%
0.04%
0.10%
0.4%
ステレオセパレーション
Local DX
1kHz:
20Hz〜10kHz:
60dB
55dB
38dB
30dB
周波数特性 50Hz〜10kHz ±0.3dB
20Hz〜15kHz +0.3 -0.5dB
サブキャリア抑圧比 75dB
ミューティングレベル 5μV(19.2dBf)
Auto-DX動作レベル 50μV(19.2dBf)
出力レベル/インピーダンス
FM(100%変調,1kHz)Fixed:

Variable:
1V/600Ω(Volume max)
500mV/3.3kΩ(Volume center)
1V/600Ω
Rec Cal信号
(333Hz,FM50%変調相当)
Fixed:500mV/600Ω
Variable:250mV/3.3kΩ(Volume center)
付属機構 DCサーボモーターによる10局プリセット選局機構
スタティック点灯によるデジタルリードアウト
RXモード切換え(Auto-DX,Super DX)
FMミューティング&OTS
デュアルモードシグナルクォリティメーター
オプティカルバランスタイプ・センターチューニングインジケーター
ダブルオートブレンド
レコーディングキャリブレータ
使用半導体 IC:23個
FET:11個
トランジスタ:92個
ダイオード:38個
LED:15個
ツェナーダイオード:3個
セラミックフィルタ:7個
水晶振動子:1個
ニッカド電池:1個
ACアウトレット 1系統(300W max)
電源 AC100V,50Hz/60Hz
定格消費電力 16W
外形寸法 幅460×高さ95×奥行335.5mm
重量 6.2kg

ページの先頭へ戻る

アビエスリサーチ トップへ戻る

inserted by FC2 system